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マル激トーク・オン・ディマンド 第1035回(2021年02月06日)
ゲスト:郷原信郎氏(弁護士)
司会:迫田朋子 宮台真司
入院を拒否した感染症の感染者や営業の時短・停止要請に従わなかった飲食店などに対する罰則の導入が謳われた新型コロナ対策特措法、感染症法などの改正案が2月3日、成立した。今月13日から施行されるという。
しかし、この法改正には数々の疑問がある。
感染症法の入院措置に罰則を設けることで強制力を持たせることは、ハンセン病や結核、HIV感染者に対する科学的根拠なき差別や強制隔離、ひいては断種手術にまで至った最悪な歴史の教訓を受けて1998年に制定された感染症法の基本的な法の理念に反すること。しかも、コロナ対策としては、そもそも今回の法改正の目玉となっている罰則の対象となる入院拒否者や時短要請の拒否事業者が、現在の感染拡大の元凶となっているというエビデンス、つまり立法事実が存在しない。
東京大学法科大学院の米村滋人教授は参議院の内閣委員会に参考人として出席し、症状の有無にかかわらず検査で陽性になると強制的に入院させられるということになると、どうしても入院したくない人は検査そのものを忌避することになり、かえって感染を拡大させてしまう結果を生む恐れがあると証言している。
また、弁護士の郷原信郎氏は、強制入院の権限をうたう感染症法の改正案について、法律の建て付け自体が不自然で「まともな法律の体をなしていない」と酷評する。「これでは実際にはその条文は適用できないだろう。何のための法改正だったのか、その真意を疑う」と郷原氏は語る。
結局のところ、今回の法改正も、そして緊急事態宣言の延長ですら、まったく有効なコロナ対策を打つことができない政府の無能さを隠すための隠れ蓑なのではないかとの疑いが拭えない。実際、今回の法律の改正案が成立する前日の2月2日に菅首相が、緊急事態宣言の1か月間の延長を発表したことは、決して偶然ではない。
昨年後半以降の新型コロナウイルスの感染拡大については、日本を含むアジアの国々は欧米諸国と比べると極端にコロナの感染者数も死者の数も、はるかに低い水準に抑えられていた。その原因としては、BCGの接種率の高さであったり、室内では靴を履いたり、ハグ、キスをする習慣がないことだったり、中にはネアンデルタール人のDNAの有無まで、さまざまな説が取り沙汰されてきたが、今のところ誰も科学的な根拠をあげて明確な説明ができていないため、一般にそれは「ファクターX」(X(謎)の要因))などと呼ばれ、謎のままになっている。
しかし、以前から何度も指摘してきたように、理由が何であれ日本の感染者数はアメリカのピーク時の絶対数で100分の1、人口比でみても30分の1程度に過ぎないし、英、仏などと比べても同様だ。そして、これもこの番組では繰り返し指摘してきたことだが、日本は人口当たりの病床数が世界一多い。まずは、病床世界一の日本がなぜ欧米の数十分の1の感染者数で緊急事態を宣言しなければならないほど追い詰められた状況になってしまうのか。そして、とは言え日本はアジア諸国の間では群を抜いて感染者も死者数も多いのはなぜなのかを、よくよく検証してみる必要があるだろう。
医療の逼迫については、日本政府が昨年の緊急事態宣言発令以降、一般病床をコロナ病床やICUに転換する努力を怠ってきたことのつけが回ってきたことに尽きる。しかも、その間、第3波への備えを進めていなければならかったはずの政府は、与党幹部と関係が深い観光業や運輸業を救済する目的で実施されたGo to Travelに、ファクターXという天からの授かりものをいたずらに消費してしまった。これはひとえに日本政府がコロナ対策に失敗していることを意味している。日本はコンタクトトレーシングを行う上で最強の武器となるはずのスマホアプリの開発さえまともにできていなかったことが明らかになっているし、ワクチン開発でも他国の後塵を拝している。
結局、医療体制が逼迫しているとの理由から緊急事態宣言という形で国民がさまざまな行動変容を強いられ、特に飲食店などは営業短縮による経済的な打撃を甘受することによって、政府の不作為のつけを払わされている。また、Go to Travelの是非や、今回の緊急事態宣言延長を受け、飲食店などに対する国の助成を強化する必要性が叫ばれているが、それはいずれも政府の無能さが引き起こした大きな損害を、国民の税金を使って埋め合わせているに過ぎない。
緊急事態宣言の延長を発表した2月2日夜の会見で、菅首相は与党議員の「夜の銀座」問題で謝罪を繰り返し、G7の中で日本だけがまだワクチン接種を開始できていない理由についても、苦しい弁明を強いられている。それらを何度も謝罪したうえで、最後に国民に対し「もうひと踏ん張りの協力をお願いしたい」と呼び掛ける。つまり、政府は有効な手立ては打てないので、国民の犠牲と頑張りで何とかこの難局を乗り切ってほしいとお願いするしかないというのが、今の日本政府の実力であり実情なのだ。
日本では社会の様々な面が機能不全に陥っていると言われて久しい。東日本大震災とそれに伴う原発事故に際しても、危機対応という意味においても、事後の安全対策や被害者救済という意味においても、日本政府はことごとくやることなすことが遅すぎたり、足らなかったり、見当違いだったりといったことが繰り返された。そのたびに泣かされるのは国民であり、最終的にそのつけを払うのも国民だ。その意味では、最初からまともなコロナ対策を期待する方がおかしいのかもしれない。しかし、そのような政府を選び、それを許容しているのも、われわれ国民なのだ。
今週は鳴り物入りで与野党合意(自、公、立憲、維新などが賛成)の末成立した改正法が「まともな法の体をなしていない」と酷評する弁護士の郷原氏と、なぜ日本がコロナで有効な手が打てないのか、なぜこんな日本になったのかなどについて、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
【ゲスト・プロフィール】
郷原 信郎(ごうはら のぶお)
弁護士
1955年島根県生まれ。77年東京大学理学部卒。三井鉱山勤務を経て80年司法試験合格。83年検事任官。東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事、東京高検検事などを経て、2006年退官。08年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)を設立。10年法務省「検察の在り方検討会議」委員。著書に『「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪となる国で』、『検察崩壊 失われた正義』など。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
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